インタビュー

アカデミア発ベンチャーで
世界初オンサイトアンモニア生産の社会実装を目指す

つばめBHB株式会社
研究開発部門 触媒セクション マネージャー

井上泰徳氏

学生時代から参画した研究に、ベンチャーで再び挑む

東京工業大学大学院博士課程1年目の後期に、細野秀雄教授(当時)を中心とした内閣府の最先端研究開発支援プログラム(FIRST+α)プロジェクト(採択課題名:新超電導および関連機能物質の探索と産業用超電導線材の応用)における超電導物質の関連機能探索テーマ:「エレクトライドを活用したアンモニア合成」研究チームに参画しました。当時、原研究室の特任助教であった北野政明博士とともに研究を推進し、エレクトライド触媒によるアンモニア合成の基礎データの取得に貢献することが出来ました。このプロジェクトの成果が、つばめBHBの設立へのきっかけに繋がっています。

博士課程修了後は、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業ACCELプロジェクト(採択課題名:エレクトライドの物質科学と応用展開)の博士研究員(ポスドク)として、引き続きエレクトライド触媒を用いたアンモニア合成の研究に従事し、アミド系触媒によるアンモニア合成活性試験と、その触媒の解析データの収集を行いました。尊敬できる先生方や同僚たちと、研究に明け暮れる日々はとてもハードでしたが充実していました。

プロジェクト終了後は、別の大学で特任助教として研究を行いましたが、 特任助教は任期があるため、次の就職先を探さなければならない状況でした。また、それまで関わってきたプロジェクトは、常にハードルを越え続けなければならず、それと比較すると他での研究にどこか物足りなさを感じていました。そんな折、つばめBHBの創業者である細野先生と、北野先生から「世界初のオンサイトアンモニアプロセスの実現を一緒にやらないか?」と声をかけていただきました。以前お二人と研究を共にした際に感じたやりがいのある環境であることと、自分がこれまでやってきた知見を十分に活かせる新たなハードルにチャレンジしようという気持ちで入社を決意しました。

様々な関係者がいるからこその面白さ

研究開発業務では、細野・北野研究室から数々見出されてきたエレクトライド触媒群の実用化に向けた触媒開発を担当しています。約2年半の間に、①触媒の性能向上、②ラボスケールからのスケールアップ、③パイロットプラント用のデータ採取まで完了し、新たな特許が日本で権利化されています。いくつかの幸運な事象も重なり、自ら手掛けた触媒が、実用化のステップを徐々にクリアしていくプロセスを間近で見られることは、非常に感慨深く、やりがいを感じています。

東工大発ベンチャーであるつばめBHBは、R&D拠点を東工大内に設けているため、新規触媒材料の合成⇒性能評価⇒各種構造解析などを数日で素早く行える環境が整っています。また、出資元であり業務提携先の味の素は、アンモニアユーザーでもあるため、味の素㈱との共同開発は、彼らの実績や顧客視点も研究開発項目へ反映出来、大変有意義だと感じています。R&D型ベンチャーとして、この環境は他企業にはない強みです。

以前は、研究者として研究成果が全てでしたが、今はビジネスとして成功させることが大前提ですので、売上・利益・コストも意識して、計画を立て、研究開発を行っています。つばめBHB は、ベンチャーであり、社内メンバーも30人程のため、研究室時代とそれほど変わらず、部門間の連携はスムーズだと想定していました。が、実際は難しい場面も多々あり、バックグラウンドがそれぞれ違うことを念頭に置いて、コミュニケーションを重ねる必要性を実感しています。また、つばめBHBには、味の素㈱、UMIなど外部の方にも参画いただいているため、様々な意見、要望が次々と出てきます。アカデミアでは経験出来なかったことで、もちろん大変ではありますが、とても面白く、刺激的な日々です。

左から井上氏とCTO横山氏。つばめBHBでは幅広い年代の社員が協同しています。

日本の産業を支えるために博士課程進学者を増やしたい

日本の場合、博士課程に進学する人は“少し変わっている人”というマイナスなイメージを持たれることがあります。博士課程修了後、研究を続けたいと思ってアカデミアに残っても正規のポストは限られており、私のようにポスドク・特任助教の道を辿る方は少なくありません。そのため、その後のキャリアパスに明るい未来が描きにくい状況にあることがマイナスイメージを持つ一つの理由だと思います。研究を続けていきたいと思う学生達はいるものの、以上のような背景によるイメージから博士課程への進学者が減っています。研究者自体が減ってしまうことは、日本の科学界・産業界にとって危機だと感じています。

つばめBHBがアカデミア発の技術を社会実装することは、日本の化学産業と大学が連携した産学連携の良いモデルケースになると思います。日本でこのようなケースが増え、博士やポスドクの活躍先の選択肢が増えることで「これからの時代は博士課程に進学することも良いかもな」、と思わせるような事例となれることを目指して日々頑張っています。